よくわかるSDGs講座シリーズ | アジア・アフリカの保健医療の現場を中心に、SDGsの全体像を習得し、企業・教育現場・市民社会などでSDGsを推進するためのヒントを探すための講座シリーズです。

第6回講座 ビッグデータの活用

講演1「ゲノム医学におけるビッグデータの活用」
徳永 勝士 (国立研究開発法人 国立国際医療研究センター ゲノム医科学プロジェクト 戸山プロジェクト長 ナショナルセンターバイオバンクネットワーク 中央バイオバンク長(兼任))


【講演要旨】 ヒトのゲノムは約30億個のDNA塩基対からなり、その約0.1%に個人差が見られ、その一部が病気の発症に関わっている。 遺伝学的な視点から病気を分類すると、単一遺伝子疾患(遺伝病)と多因子病に大別される。近年の次世代シークエンサーの急速な発展と情報解析技術の進歩によって、病気に関わる遺伝子変異の特定が進んでいる。 単一遺伝子病やがんでは「ゲノム医療」も始まっており、糖尿病などの多因子性common diseaseでも多数の遺伝要因が特定され、個人の遺伝的リスクの推定が可能になりつつある。 このように、ゲノム情報を利活用して医学・医療を一層推進し、人々の健康を増進するためには、個人情報を保護しつつ、研究の場において大規模なゲノムおよび臨床データを共有することが極めて重要である。 一方、大規模なゲノム解析データによって個人や集団の遺伝的特性も明確になりつつあり、その成り立ちへの理解も進んでいる。

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講演2「ゲノムデータを活用したタイにおける結核対策」
大前 陽輔(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター ゲノム医科学プロジェクト 戸山プロジェクト 特任研究員)


【講演要旨】 結核は、世界人口の4分の1が結核菌に感染しているものの感染者の生涯の発症率が10%程度であり、感染症の中でも遺伝要因の強い寄与が示唆されている。 また、結核はその診断・治療の難しさにより現在でも単一の病原体による感染症では最大の死亡原因である。 我々は地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)のもと、ビッグデータである結核患者のヒトゲノム情報と感染結核菌のゲノム情報の両方を解析するというアプローチで、 タイにおいて結核の新たな診断法の開発ならびに抗結核薬の有効性・副作用予測システムの開発を行った。 ゲノムデータを活用する重要性が我々のプロジェクトを通して認識された結果、成果であるNAT2遺伝子検査や、 耐性菌遺伝子解析に基づいた治療方針の決定ならびに結核アウトブレイク調査のための結核菌の全ゲノムシークエンス解析がタイの結核対策ガイドラインに採用され、2018年からタイ保健省が提供する医療サービスとして開始されている。

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