よくわかるSDGs講座シリーズ | アジア・アフリカの保健医療の現場を中心に、SDGsの全体像を習得し、企業・教育現場・市民社会などでSDGsを推進するためのヒントを探すための講座シリーズです。
コメンテーター
石井徹(朝日新聞編集委員 環境・エネルギー問題担当), 岩附由香(世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE代表),
根本かおる(国連広報センター所長)
【石井】 SDGsの17の目標が繋がっていることがよくわかりましたし、関係性を知ることが出来ました。気候変動対策の国際的な枠組みパリ協定とSDGsは車の両輪のようなもので、
同時に進めていくべきものです。気候変動は、SDGsの17目標のうちの単なる一つではなく、ほぼ全部に関わっているものと考えてよいと思います。
SDGsのウエディングケーキというのをご存じでしょうか。SDGsは3層構造になっていて、自然や環境に関する課題の上に社会課題や経済課題が乗っているというものです。
地球の健康が失われた状態では、社会や経済の健全さを保つことはできないのは、はっきりしています。SDGsの基礎になっているのは、6番の安全な水とトイレを世界中に、
13番の気候変動、14番の海、15番の陸の問題だと改めて感じます。保健とか感染症の問題は、気候変動とか、地球の回復力に直結している問題です。感染症に限らず、
人々の健康は地球の健康状態に左右されます。ここをどうするのか、二つの関係性を考える必要があると思いました。ジェンダー問題では、気候変動の影響を最も強く受けるのは、
国で言えば弱い国、最貧国ですし、性別で言えば、女性だと言われています。農業の大きな部分を女性が担っているという意味でも、そうですが、社会が不安定を増せば、
弱いところにしわ寄せがかかります。
気候変動は、ジェンダーの不平等是正のチャンスを狭めるとも言われています。貧困対策のための新たな投資で連想したのが、機関投資家や金融機関が、
化石燃料に投じてきた資金を撤退するダイベストメント(投資回収)です。回収できなくなる恐れが出てきたためで、表明した投資家の運用資産は900兆円に上っています。
回収した資金は、再生可能エネルギーとか、新しいイノベーションに回っています。この方法は、他の社会課題を解決する上でも、有効なのではないでしょうか。
質問の中で「外部性をどうするのか」という話がありましたが、温暖化問題では「外部不経済を内部化しよう」という動きが進んでいます。炭素税のようにCO₂排出にお金をかける、
カーボンプライシング(炭素の価格化)が大きなテーマになっています。この手法も他の課題解決に生かせるのではないでしょうか。外国人との共生で思い出したのが、
「気候難民」です。すでに年に2500万人が温暖化によって移住を強いられているそうです。シリアの内戦の原因も干ばつがきっかけと言われています。
温暖化で生まれる難民にどう対応するか、という視点も必要です。
【岩附】 児童労働に取り組んでいるACEという団体の代表をしております、岩附と申します。私は子どもの観点からお話をします。子どもの権利条約ご存知の方は?
今半分くらい手が上がりましたが、今年が条約ができて、30年、日本が批准して25年という節目の年であり、ちょうど日本の子どもの権利の状況も昨年日本の政府が報告を国連にしまして、
その審査が今年1月にあり、日本の課題が指摘されたばかりです。日本における子どもの権利に関する課題という観点から、
外国人の子ども達がかなりシビアな状況に置かれているということを皆さんと共有したいと思います。教育と文化というお話がありましたけれども、実は労働という分野でも、
大変厳しく、親が日本に働きに来て家族に帯同としてきた場合、子どもは大学を出ていないと正規の仕事につけず、28時間という労働の時間制限があり、グローバル人材が活かされていない。
また、教育においても、高校生の場合、日本語教育が必要な生徒は、日本人の7倍以上の割合で中退、高校からの進学率は平均の約6割、就職する場合は9倍の確率で非正規雇用。
私はアメリカの公立高校に通った経験がありますが、そこでは英語が母語ではない子たちのクラスが別にあり、また様々なサポート制度が整っていました。私たちは、
こういうふうに受け入れられていて、ここに居てもいいんだなと思える感覚を得ることができました。その感覚は大事だと思います。
外国人の受け入れについては、
教育は保健などの対応を自治体任せにせず、政府から支援なりガイドラインを提供する必要があるように思います。また、日本で生まれて、日本で育って、
ほぼ母国語が日本語という子ども達が、親が在留資格を失うと、なんの言語もわからない、親が来た国に返されるというのは、明らかな子どもの権利の侵害です。
子どもに対する暴力についてですが、一言でいうと子どもは、家庭で暴力にあっても、逃げられないんです。その選択肢のなさをわかっていただきたい。家庭の暴力は予防が重要ですが、
先程山口さんのおっしゃっていた、CAPのプログラム等、子ども自身が学び自分を守る教育や、大人に教育をする機会が本当に少ない。子どもが大人の所有物ではなく、
生まれた瞬間から権利を所有する一人の人であるということを考えれば、DV法で配偶者を殴ったら、捕まるのに、子ども殴っても捕まらないって、おかしくないですか?
最後にESG投資に関し、ノルウェーの年金基金が、日本の電力企業から実際に資金を引き揚げるというケースがありました。理由は化石燃料。
今は環境分野でこのような動きがありますが、社会や人権の分野でも起きてくると思います。実際に、
産業で児童労働はないですか?と機関投資家グループが企業に質問しているケースもあります。日本は残念ながら、サプライチェーンの人権侵害について、
企業がもっと積極的に取り組むための法律がありません(他国にはかなり出来ていいているのに)。そのあたりも課題だなというふうに感じております。ありがとうございます。
【根本】 国連広報センターの根本です。4時間の長丁場にも関わらず、ほとんど帰る人がいないほど、会場に熱気があふれていますね。
2015年の9月に「このままでは地球を将来に繋いでいけない」という強い危機感から生まれたSDGsですけれども、日本はその翌年の2016年実施が始まった年にG7のホスト国。
SDGs採択後最初のG7サミットということで、日本政府は全閣僚が参加してのSDGs推進本部、それを伊勢志摩サミットの直前に発足させて、その年の12月には、
SDGsの実施原則をまとめた。こういう、whole of government、政府全体で取り組む、横断的な姿勢は今でこそいろいろな国々でみられるようになりましたけれども、
日本が先陣をきって形にして示したそう言えるものだと思います。そして2017年に経団連がSDGsの推進を掲げる形で企業行動憲章を改定したほか、金融界にも広がった。
教育の分野では、2020年度から、小学校の学習指導要領にSDGsが盛り込まれ、そして翌2021年度からは中学校の学習指導要領にも盛り込まれて、
生徒たちが横断的にSDGsについて学ぶそういう時代が来る。Whole of governmentをさらに進めて、whole of society、社会全体でSDGsに取り組む姿勢を日本が形にしてくれている。
そのように国連では見ておりまして、国連の高官が日本を訪問すると、全体感を持った取り組みの姿勢に大変勇気つけられているところです。
今年はSDGsの実施が始まって4年目。国連、国際社会全体にとって、グローバルなSDGs実施のストックテイキングの年です。2019年、SDGsに関する行事が本当に詰まっております。
毎年7月にニューヨークの国連本部でハイレベル政治フォーラムという場がありまして、閣僚レベルでSDGsの実施状況について点検しますが、今年は4年に1回首脳レベルで点検します。
9月国連総会のハイレベルウイークで世界の首脳たちが、ニューヨークに集結するそのタイミングをとらえて、9月24・25日にSDGsサミットが行われます。その前の9月23日、
気候変動はそれ単体で議論をして、様々なコミットメントを引き出す必要があるということで、事務総長の提唱で、気候サミットが行われ、そして同じ週に、
日本が強く提唱してきたユニバーサル・ヘルス・カヴァレッジ(UHC)、そしてファイナンシング・フォー・デベロップメント資金調達ですね、
そして気候変動や異常気象の影響をもろにうけてしまっている、小さな途上国のためのハイレベル会合も、気候サミットとSDGsサミットも補完するかたちで行われる。
まさに9月23日の週というのはSDG外交の週になります。是非注目していただきたいと思います。
私は、SDGsは「シンク・グローバリー、アクト・ローカリー」を意味しているものだと思っております。
様々なものを、分野を横断的に捉えるというのはもちろんのこと、世界と自分を繋いで、自分のまわり、そして権利が世界レベルの課題と繋がっている、
そういう二つの方向での繋がりがSDGsを体現していると思っております。来年のオリパラ東京大会はSDGsを主流化する初のオリンピック・パラリンピックの夏の大会になります。
大会組織委員会は計画づくりにおいてSDGsを主流化してくださっていまして、対外的な発信も含め、大会組織委員会と国連との間でSDGsの推進連携について基本合意書を結んでいす。
さらに2025年には大阪・関西で万博があるわけですが、ここでもSDGsがテーマとなっています。今日の議論ではUHC保健がテーマの一つでしたが、
17の分野において特に他のゴールに対するアクセレレーターになる分野があり、保健はその一つでしょう。同じことがジェンダーについても言えるわけですが、
今年3月23,24日にWAW!とW20との共同開催があり、また今週金曜日は国際女性デーです。いつにもまして今月は日本でジェンダー平等、
女性のエンパワーメントについての議論が活発に行われます。また世界レベルで見ますと、1979年の女子差別撤廃条約の採択からから丸40年、ストックテイキングする節目になります。
そして、技術革新・イノベーションは、気候変動対策で不可欠です。地球を確り続けていくために、例えば浮体式洋上風力、又は水素の活用などで、
日本はその先駆的な技術を是非世界に示していただきたい。一方、住宅の断熱については、日本はもっとできるとの指摘があります。
そして、多文化共生の側面で申し上げますと、外国人との共生は、私たちが成熟するチャンスを提供してくれていると私は思います。グローバリズムがどんどん進んで、
外と繋がらないで成立するビジネスはありませんし、社会もありません。観光客を受け入れるというのはもちろんですが、お客さんではなく、私たちの社会に包摂して共に生きていく、
そういう外国人の方々と向き合うこと、これは日本社会が更に成熟するチャンスにつながるのではないでしょうか。今年は出入国在留管理庁ができる元年でございます。
どのように日本が向き合っていくのか、注目しているところです。