講演1「森林保全と村おこし」 古瀬繁範 (地球の未来の環境基金理事長)
【講演要旨】 アマゾンの熱帯雨林の減少の原因は、大きく分けると大規模な牧場・農地の造成、木材加工用の森林の乱伐・伐採。小農民、零細農民の焼き畑と土地を放棄するという行為。 アマゾンの熱帯雨林は、2000年から2010年の10年間で、年間約13万平方キロの森林が失われている。80年代から90年代に比べると、国際NGOが活発に活動して、違法伐採の現場を押さえ摘発してきて、若干消失面積は緩やかにはなっているが、決して増えてはいない。現在も年間約1万5,000から2万平方キロ、約四国と同等面積くらいの森林がアマゾンから消えているというのが実情。 小農民の焼き畑、土地の放棄について、農民たちは、土地をもらうが農業技術、農業知識を持っていない。一番手っ取り早く農地がつくれるのは今でも焼き畑。原生林ではなく二次林だが、それが焼き払われて耕作され、耕作されても地力が落ちそのまま放棄される。我々はそこにアグロフォレストリーという、いわゆる森林農業という手法を農民に支援してきた。アグロフォレストリーでは、1年で収穫でき換金作物にもなるものを植えるゾーン、比較的早く成長する木のゾーン、成長の緩やかな、時間のかかる木を植えるゾーンと区分して、混ぜたゾーン作りをする。農民の人たちがそれで生活の糧を得ながら森を回復、森を守っていくというのがアグロフォレストリーという手法。具体例として、トメアスというアグロフォレストリーの世界的な先進地での取り組み事例を紹介する。 アグロフォレストリーの農場を広げ、経済活動になることは、大きなメインストリームになるとは思えないが、地域でこういう活動が成り立っていけば、経済として持続可能なものになると考える。
講演2「地球温暖化の健康影響と適応策」 橋爪真弘 (長崎大学大学院 熱帯医学研究所教授)
【講演要旨】 過去100年の地球の平均気温と二酸化炭素濃度を見ると、1960年半ばごろから急激に地球の気温が上がってきています。また、二酸化炭素濃度も着実に上昇しています。そして日本でも100年間で平均気温が約1℃上昇しています。この事実を受けて、温暖化対策が成功した場合と何も対策を講じなかった場合について、IPCCが地球の気温の予測を発表しました。対策が成功した場合でも、今世紀末にさらに約1℃の気温上昇が見込まれ、それは極端現象(豪雨、洪水、熱波、台風等の気象災害や自然災害)の増加を引き起こすとも言われています。 洪水によって、バングラデシュのようなもともとコレラが蔓延しているような地域では、本来の流行期間とは別に、洪水後の期間に流行が起こってしまいます。日本で洪水が起こってもコレラは流行しませんが、日本でも熱波によって熱中症患者が増加する事例が起こっています。また、生態系は気温上昇に人間以上に敏感です。例えばマラリアやデング熱を媒介する蚊等の媒介動物は僅かな気温上昇によって、個体数が増加したり生息域が拡大したりします。 2014年のWHO国際会議によると、主に低栄養、マラリア、下痢症、熱中症を原因として超過死亡(温暖化によって過剰に増加する死者数)が、世界で年に数十万人発生するそうです。これらの温暖化による病気は、子どもの病死に関連があるため、子供が気候変動の影響を受けやすいと考えられます。 過剰死亡の大きさを面積に比例させたカルトグラムによれば、アフリカ、南アジアで面積が大きくなっていて、北米、ヨーロッパ等は非常にスリムになっています。 つまり、相対的に温暖化の影響を受けやすいのはアフリカと南アジアで、これらの地域は発展途上国であり、衛生状態があまり良くなく、医療レベルも良くない国ということが共通項として見られます。しかしながらこれらの地域は、二酸化炭素排出量が低く、温暖化に対してはあまり貢献していないにもかかわらず、健康影響を受けやすくなっています。 途上国と先進国で温室効果ガスの排出量を一様に減らすことにはならないため、先進国が何らかの形で途上国に技術援助等をして地球全体で減らしていく(緩和策)必要があります。この緩和という言葉には、温室効果ガスの排出を抑制し温暖化をストップさせる、あるいは温暖化の進行を抑制するという意味合いがあります。仮に、今、温室効果ガスの排出をゼロにしたとしても、少なくとも数十年は温暖化は続くであろうと考えられているため、緩和策だけでは不十分です。人々の社会、生活パターンを温暖化しつつある環境に合わせて変えていく(適応策)必要があります。 地球温暖化の健康影響は、将来の遠い話ではなくて、既に起こっている話ですが、将来の影響を正確に予測するのは難しく、さらに研究が必要です。社会レベルでの緩和策に加えて適応策が重要で、両輪で進めていく必要があります。