よくわかるSDGs講座シリーズ | アジア・アフリカの保健医療の現場を中心に、SDGsの全体像を習得し、企業・教育現場・市民社会などでSDGsを推進するためのヒントを探すための講座シリーズです。

第3回講座 コミュニティの役割

講演1「地域展開する日本の医療とSDGs」
座光寺正裕 (JA長野厚生連 佐久総合病院医師)


【講演要旨】 野辺山診療所の標高は高く、通称「天国に一番近い診療所」です。70年前までは寒くて人も住めず、戦後開拓された土地です。現在南牧村には診療所2か所を医師1名、看護師4名、事務1名で対応しています。 1978年のPHC(プライマリヘルスケア)宣言が源流となり、その後2000年のHealth for all(HFA)、2015年のMDGs、2030年までにはUHC達成と、数々の国際保健の目標が叫ばれていますが、中々達成できていません。 佐久では若月俊一院長が農村巡回診療を開始し、へき地に医療を届けました。現在も佐久病院は5:3:2(病院診療:外来診療:地域での公衆衛生活動の比)をモットーに病院だけにとどまらず、医療アクセスの悪い農村にサービスを届けることを心がけています。 「住民参加を口にするのはたやすいが、これを本当に実行するのはむずかしい」というのは若月院長の言葉です。 若月院長の巡回診療をする際の農民への特徴的な取り組みとして、衛生と疾患をテーマにした演劇などを中心に、楽しむメディアを用いました。佐久における地域展開の成功の秘訣として、一つは病院祭りがあります。農民はなぜ病院に来ないのかを分析し、病院へ来ない人への働きかけを模索しました。 医療機関に来る前の住民への働きかけとして他には、佐久では1940-50年代から住民参加と潜在疾患の早期発見の重要性を認識し、医療機関へ受診する以前のセルフケアの重要性にも着目していました。 「住民が医療者を育てる」という考え方に立って、住民と医師の信頼関係構築を重視してきました。
  PHCの4つの原則には、1.住民のニーズに基づく方策、2.地域資源の有効活用、3.住民参加、4.他分野との協調が挙げられています。 SDGs視点で見るとまだ、日本にも医療から取り残されている人がいるのではと考えています。 住む場所、社会経済的な状況のよって受診サービスが違ってはならないと思います。 「健康は平和の礎である」というのは若月院長の言葉です。オタワ憲章では「平和は健康の礎」と言っていますが、「健康」はそれ自体が最終ゴールではありません。 健康を通じて世界が平和になること、より多くの人が豊かな心で生活できるようになることを目指して仕事をしています。

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講演2「ガーナのCHPSとUHC」
青木恒憲 (国際協力機構(JICA) 人間開発部保健第一グループ企画役)


【講演要旨】 ガーナといえば「チョコレート」「野口英世」「奴隷海岸」「アフリカ初の独立国」などを連想されるかもしれませんが、今日はそこに「CHPS」も加えて頂ければと思います。 CHPSは地域保健戦略Community-based Health planning and Servicesの略です。 ガーナの国土は日本の2/3、2800万人、10州216市町村です。 住民の基礎的保健サービスのアクセスを高めるため、このガーナの国土をゾーンに分け、コミュニティーに保健施設と2名の駐在保健師を配置し、PHC活動を行ってきました。CHPSは15のステップを経て設置されます。 ガーナのコミュニティ保健活動の歴史は1957年独立直後からで、1978年にPHC戦略が策定され、1990年代にはコミュニティヘルスナースが導入されました。 これらはプロフェッショナルなサービスの提供を目指したものですが、効果は上がりませんでした。 そこで2000年以降、コミュニティーへのCommunity Health Officer(CHO)の配置、施設整備、そして住民参加にCHPS政策を採用したところ、2012年には全国2,226カ所に広がりました。 日本政府の支援で、64か所のへき地での施設整備、エボラ流行時の啓発活動にも大使館レベルで関与しました。また東京大学の協力を経て母子手帳の開発をしました。
  CHPSは現状、ガーナ全体の6割しかカバーできていません。産前健診、非感染疾患への対応もまだ不十分です。 UHC政策の実行が求められます。Joint learningとして近隣国との学びあい。日本でも佐久病院との交流などが始まっています。 SDGsで日本と途上国をシンクロさせる場合には、先進国のことと認識する必要があると思います。 SDGsがsustainableであるためには、セクターを超えた総合的な協力活動が重要になります。 皆さんの知恵で現状をどう変えていくのか、創造的なアイデアが求められていると言えます。

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